赤外写真の無限遠の話。
赤外改造の話は分かった。画像処理の話も分かった。で、そのあとにやってくる落とし穴についての記事です。
赤外線の撮影ではピントがズレる
プリズムを思い出してください。白色光をプリズムに通すと、赤から紫まで光を分光することができます。これは光の波長によって屈折率が変化するためでした。人間の目は可視光線しか見えないため赤がいちばん外側に見えますが、実際は赤外線も屈折して分光しています。可視光と赤外線は屈折特性が異なるわけです。
基本的にレンズというのは通常の撮影、つまり可視光に対して最適化されています。したがって、屈折特性の異なる赤外線を用いて撮影する場合、像の位置が変化してしまいます。当然ですがレンズの距離指標は可視光に合わせて作られていますから、赤外撮影では距離指標はあてにならないのです。
実際、古いフィルム用レンズだとR指標=赤外指標がついているものがあります。
上がSuper-Takumar 28mm f/3.5、下がAi-Nikkor 50mm f/1.4です。
タクマーの方には分かりやすくRの字が刻印されていますね。ニッコールでは赤ポチがついています。これが赤外指標です。
どちらも見て分かる通り、通常撮影の無限遠は赤外でのオーバーインフになります。逆に赤外で無限遠を合わせると、可視光では無限遠よりも近距離にピントが合うことになります。
写真のレンズに埃がついてて汚いのは勘弁してくださいね(笑)
有害光カットフィルタの除去でもピントがずれる
フィルタの取り外しによって光路長が変わる
赤外線の合焦位置と可視光の合焦位置が違うのは納得なのですが、もう一つの問題があります。赤外撮影をするために外した有害光カットフィルタの存在です。
有害光カットフィルタは言ってみればただの板ガラスですが、板ガラスであっても屈折はします。センサーの場所はこの板ガラスによる屈折を計算された上で配置されており、勝手に取り外すと光路長が変化してしまうことになります。
具体的に言うと、レンズの指標を無限遠に合わせた際に、近距離にピントが合うようになります。無限遠にピントが合わなくなるのです。もともと赤外撮影ではオーバーインフの位置に像を結ぶにもかかわらず、その補正量を超えてピント位置が変化するようなのです。
空や建物を撮りたい赤外撮影において、無限遠が出ないというのは大変な問題です。
解決法
これを解決する方法は主に2つ。
- 取り外したフィルタの代わりに、同じ屈折率の板を入れる
- センサーの位置を前に出す
実際に天体写真業界では、前者が割とメジャーな方法だと思います。具体的には、反射防止コーティングをした同じ厚みの板ガラスを挟む手法です。アマチュアレベルでは、透明アクリル板で代用している人もいるようです。
後者は、フランジバック長を物理的に短くしてやるという方法です。当然ですが物理的な空間が必要なので、出来るカメラと出来ないカメラがあります。大抵、フランジバック長を調整するためのシムが入っているのですが、それを取っ払ってしまうというやり方が多いようです。
もう一つの打開策
じゃあお前はどうしているんだ、という部分ですが。私は先述の2つの改造はしていません。じゃあ無限遠合わないじゃん!
- オーバーインフのレンズを使う
はいこれです解決策。そもそもオートフォーカス用レンズは無限遠を超えてピントが動きます。これを利用して対応しちゃうわけです。
実際、自分が赤外用に使っているコンタックスのGマウントレンズはオートフォーカスレンジファインダー用というちょっと変わった存在なので、無限遠を超えてピントが来ます。動き幅も結構大きいので、何ら不自由なく無限遠にピントが合わせられるというオチでした。
これを先ほどのSuper-TakmarとかAuto-Nikkor、Ai-Nikkorあたりで試してみるとピントが若干合いません。無限遠の限界まで回しても、50mくらい先にある鉄塔にピントが来る感じ。遠くの山はちょっとピンボケになります。
また、現代のオートフォーカスレンズでもOKです。TAMRONのSP 70-200mm f/2.8 VCとかで星を撮ってますが、何ら問題なくピントが合います。
写真を撮ったけど記事の内容的に使わなかったBiogon28mm。折角なので張っておきます。この子でもちゃんと無限遠は出ます。
まとめ
長々と文章多めでお送りしてきましたが、結論は
となります。
正直オーバーインフのレンズを使うのが一番手っ取り早いと私は考えています。とはいえ赤外撮影したい状況は様々ですから、適切な方法で補正していただければと思います。
では。