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やりたいことをやる。やりたくないことはやらない。

X線写真用レンズを集めたいという話。

レンズ沼にずっぽり漬かっていても、あんまり聞かないX線写真用レンズについて。文章ばっかりでお送りします。

 

 

 

大口径レンズがほしい

人なら誰しもf値1.4や1.2などのハイスピードレンズや、300mm/f2.8といった大口径望遠レンズに憧れるはずです。それを前提で以後話を進めますね。でないと話が続かない。

 

やはり大口径はロマンです。巨大な鏡筒、吸い込まれるような前玉、ずっしりとしたガラスの重み。従来では撮影できなかった暗闇でも光を集め撮ることのできる究極の光学性能。誰しも一度は手にしてみたいと願うでしょう。大口径の魅力を直に触れてみたい、と。

しかし、最新の光学技術を駆使した大口径レンズは最低でも10万円、大口径望遠に至っては100万円を超えるものも珍しくありません。残念ながら私は企業も油田も持っていませんので、そんな高級品を買うなど到底不可能なはなし。むりむり。

究極の光学性能は妥協してオールドレンズに逃げたとしても、N社のf1.2クラスのマニュアル単焦点だっていい値段するし、C社のf1.0はプレミアがついてるし、L社f1.0なんて手が出るはずもなく。Z社やF社の大口径もアホみたいに高いしなぁ。

やはり大口径は貧乏人には釣り合わないのだ。世知辛いなぁ…

 

 

知られていない大口径レンズ

初夏のとある日、いつものようにツイッターをふらふらとさまよっていた時のこと。

 

 

なんだこれ?

 f0.7?しかも100mm?口径142mmってことはゴーヨンより大きく、ヨンニッパやハチゴローと同じじゃないか?ツイッターのタイムラインを漁ると0.75や0.95なんて意味のわからんf値のレンズがゴロゴロでてくるぞ?どういうことだ?

 

 

産業用レンズという更なる沼

 レンズ銘を調べてみると、どうもX線写真用レンズとして用いられていた物のようです。意外と多くのブランドがX線写真用レンズを作っていたことがわかってきました。

X線写真用以外にも、暗闇で撮影するためのイメージインテンシファイア用、航空機から地上を撮影するための空撮用レンズ、シャッター速度を稼ぐためのシネマ用レンズなどなど。調べてみると意外とあるものです。

 

それらから”比較的”話題に上がるレンズをいくつかピックアップしてご紹介。

最初のキューブリックプラナーは骨董品なのでそれこそ庶民が入手することはできませんが、あとの3メーカーのモノは2万円ほど出せば手軽に購入可能です。安価に購入可能な庶民派大口径レンズはちゃんと存在したんだなぁ…めでたしめでたし。

 

他にも大口径レンズは英語版Wikipediaにたくさん掲載されています。もちろんこのリストは断片的なもので、ほかにも怪しいレンズがたくさん生産されているけれども、メーカー一覧としては機能していると思う。

Lens speed - Wikipedia

 

 

そんな安いレンズが簡単に使える訳がない

 いやまておかしい。f0.75なんて誰しもうらやむスペックのレンズがそんな簡単に使える訳がない。もし誰でも簡単に使えるのなら、世にはばかるレンズグルメたちがとっくの昔に群がっているはずだ。そんなに食えないレンズばかりなんでしょうか。

 

その答えはドイツのレンズ研究家のWebページにありました。

DE  OUDE  DELFT  RAYXAR  E  RODENSTOCK  HELIGON  XR  E  TV

De Oude DelftのRayxarや、RodenstockのXR-Heligonの開発経緯を特許のレンズ構成図から推測しているページ。

http://www.marcocavina.com/articoli_fotografici/Rodenstock_De_Oude_f_0,75/03.gif

記事の中ごろのレンズ構成図にバックフォーカスの指定がある。その距離なんと0.8mm。

うーん0.8mm。今時のデジカメのフランジバックは短くても18mmや17mm程度。バックフォーカスは公開されていないが、少なくとも10mmはあるだろう。

レンズのバックフォーカスが1mmないんじゃそりゃ無限遠撮影は望むべくもない。実際作例を調べると極端なマクロ撮影ばかりだったのはそのせいかと納得しました。そりゃー無理だよね。

 

 

X線写真用レンズとしての利用用途を考える

そもそも使い方を調べてみると、こういう極端なスペックになるのも少し納得できます。

X線写真用レンズはそもそも無限遠を写す必要がなく、X線を受けて発光する板(蛍光板)の光を結像する為だけにあります。

患者の被ばく量を抑えるためには使用するX線量を減らす必要がありますから、当然蛍光板から出てくる光も少なくなる。効率よく光を吸収しフィルムに結像するために大口径のレンズが求められたのでしょう。

一方で必要のない機能は削られたと考えられます。
大口径化するために収差補正は最低限。蛍光体が発する単一波長に対してのみ収差補正がかけられていると思われます。
またX線が照射されていない時には光が入射しないため、シャッター幕も不要です。当然絞りも。
加えて、遠距離を撮影する必要がないことから、バックフォーカスを切り詰め近距離専門になったと推測されます。

 

つまりこのレンズを使おうと思うと、

  • 絞りがない
  • シャッター幕が入らない
  • バックフォーカス短すぎ

という三重苦の解決が求められるわけです。
これは難易度高そう。

 

ゆうわくにかてなかった

 ということで、まともに写らないと知ったうえで、買っちゃったよね。

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