5539

やりたいことをやる。やりたくないことはやらない。

放射能レンズの放射線を写す話。

オールドレンズマニアなら放射能レンズ(アトムレンズ)の名前を聞いたことがあるはず。変色してしまうものの、性能の良いレンズが多いことで有名です。

そのレンズから放射される放射線を撮影してみようという記事です。

 

f:id:fixsenia:20170822214700j:plain

 

 

 

放射能を持つレンズ

放射能を持つガラス材を用いたレンズがあります。放射能レンズ、アトムレンズなどと呼ばれています。英語ではRadioactive lens。1940年代から1970年代にかけて多く製造されていましたが、変色による劣化が発見され、現代ではほとんど使われていません。

放射能の原因は酸化トリウムを含むレンズを使用しているためです。酸化トリウムを用いると、いわゆる蛍石と同じ効果をもたらします。高屈折でも低分散のレンズを製造できるため、レンズの高性能化に有効でした。したがって使用されているレンズスペックも、f値1.4クラスの大口径レンズが多いですね。

いまでは蛍石といえば高性能の代名詞なわけですが、トリウムが同じ効果を持つなら高性能レンズに採用されているのも納得です。

 

ちなみに、放射能レンズの一覧が海外Wikiにあります。自分のレンズが放射性なのか気になって仕方がない方は調べてみてください。意外とありますよ。

camerapedia.wikia.com

 

放射線は撮影できる?

 先日のエントリに書いたX線撮影用レンズの情報を調べていた時のこと。ローデンストックのTV-HeligonをパナソニックGFに取り付けようとしている記事を見つけました。

www.43rumors.com

この記事では、レントゲン撮影用に用いられたレンズは放射性を持っているかもしれないので、速やかに放射性のチェックをする必要がある、と書かれていました。

該当部分とグーグル翻訳を引用しておきます。

Since this is a camera developed for radiography/Fluoroscopy purposes, one may be a little bit concerned that the lens may be ‘activated’ or mildly radioactive from extensive use in an x-ray Machine. 

これはラジオグラフィー/蛍光透視法の目的で開発されたカメラであるため、レンズが「活性化」されているか、またはX線装置で広範囲に使用されていることから軽度に放射性である可能性があります。

 またその測定方法として、ガイガーカウンターの他に、簡易的にカメラのイメージセンサを利用してX線を撮影する方法を挙げています。

The quickest way to do this is to setup your micro four thirds camera with the lens in question, put something black over the front of the lens, cover any light openings, put it in a dark room and set the camera to 30sec exposure. This should yield a perfectly black picture. If you see areas of spiked light, clusters of gray or white spots, there is a good chance the lens is partially radioactive. 

この問題の最も簡単な解決法は、マイクロフォーサーズのカメラにレンズを取り付け、レンズの前面を黒いもので塞ぎ、光が入る場所をすべて覆い、暗い部屋に置き、30秒の露出に設定します。 これにより、完全に黒い画像が得られるはずです。 スパイク状の光、灰色または白い点の集まりが見える場合、レンズが部分的に放射能を持つ可能性があります。

X線が照射されたモノが放射能を持つようになるのか?というのは少々疑問ですが、それはこの際おいといて。X線が撮影できるかどうか、について検証してみることにします。

 

我が家のアトムレンズ

特に集めた気もないのですが、我が家には3本の放射能レンズがございます。

  • Asahi Pentax Super-Takumar 50mm f1.4

f:id:fixsenia:20170822213758j:plain

  • Asahi Pentax Super-Multi-Coated Takumar 6x7 105mm f2.4

f:id:fixsenia:20170822213823j:plain

f:id:fixsenia:20170822213851j:plain

こうやって画像で見るとあまりわからないのですが、確かに3本とも黄変しています。コーティングの色ではなく、透かして見たときに黄色いのです。カラーバランスに影響がありそうです。

 

今回はマウントアダプターがあり、デジタルカメラに取り付けできるタクマーとニッコールで比較実験を行うことにします。

 

比較の対象として、放射能を持たないレンズを防湿庫から適当に2本抽出します。

  • Asahi Pentax Super-Takumar 28mm f3.5

f:id:fixsenia:20170822214106j:plain

 

f:id:fixsenia:20170822214215j:plain

 

 これらのレンズをα7に取り付けて撮影し、比較することで放射能の影響を探っていきましょう。

 

実験方法

実験方法はシンプルで以下の通り。

  1. レンズをカメラにマウント
  2. レンズにはフロントキャップを取り付ける
  3. 長時間ノイズリダクションON、RAWでSSを30秒に設定、5枚撮影
  4. Photoshopを使って5枚を加算合成し、コントラストを上げる
  5. 画面中央部を630x420に切り出し

放射線はランダムにイメージセンサーに到達するはずですから、長時間露光ノイズとは区別され、画像の中に残るはずです。加算合成とコントラスト調整は単に見つけやすくするためです。

 

実験結果

Super-Takumar 50mm f1.4 vs 28mm f3.5

まずこちらが放射能レンズSuper-Takumar 50mm f1.4の撮影結果の等倍表示です。

 

f:id:fixsenia:20170822223201j:plain

 

等倍で確認すると、ポツリポツリと長時間露光ノイズに似た輝点が発生していますね。ノイズリダクションはONなので、長時間露光ノイズではないはず。一枚一枚確認すると、それぞれで出現位置が異なることがわかりました。

 

一方Super-Takumar 28mm f3.5の撮影結果を等倍で見てみましょう。

 

f:id:fixsenia:20170822223239j:plain

 

うーん、真っ黒で50mmにある輝点はないです。たしかに長時間露光で放射線が撮れる、という情報は間違いではなさそうです。

 

Auto Nikkor N・C 35mm f1.4 vs Nikkor O・C 35mm f2.0

 もしかするとタクマーだけの現象かもしれないし、ニッコールでも検証しておきましょう。

まずは放射能レンズAuto Nikkor N・C 35mm f1.4の撮影結果。

 

f:id:fixsenia:20170822223731j:plain

 

少し見にくいですが、輝点が複数写っています。

そして下が普通のレンズAuto Nikkor O・C 35mm f2.0の撮影結果。

 

f:id:fixsenia:20170822223746j:plain

 

大体タクマーと同様の結果ですが、放射性レンズではないNikkor O・C 35mm f2.0にも一つだけ輝点が確認できます。もしかすると、30cm程離れた場所に置いていたNikkor N・C 35mm f1.4が影響したのか、または環境にもともと存在するバックグラウンドの放射線が入射したのかもしれません。どちらにせよ、アトムレンズであるNikkor N・C 35mm f1.4に比べて輝点の数は圧倒的に少ないことが確認できました。

 

そしてよくよく見ると、放射線によるホットスポットには面積があることに気づきます。通常の長時間露光は受光素子の不良なので、デモザイク処理により1つのピクセルを中心として+型に広がる形になります。しかし放射線は受光素子を通り抜けるように進むので、斜めに入射した放射線は進行方向に長く広がるように見えるのです。

 

f:id:fixsenia:20170822231258p:plain

 

言葉で説明するより画像を見た方が早いかな。上の写真が放射線による輝点の拡大画像です。2ピクセル以上の長さがあり、矢のように受光素子を斜めに突き抜ける様子がわかると思います。

 

まとめ

放射能レンズを取り付けて長時間露光することで、放射線由来と思われる輝点が発生することを確認できました。

ただ、もう少しサンプルを集めて確認するべきだとは思います。実際に線量を測ったわけではないので、線量と輝点の数に相関があるのかも気になるところ。

ただ、放射線が撮影できるという情報はデマではない、ということが分かっただけでも良しとするかな。簡易的な放射能レンズの確認にはなると思います。